ゆりかご
やさしいうたに身をまかせているとあなたの触れ方を思い出す。
行方のわからない舟にゆさぶられながらすなごちゃんはバチンと悪夢に目を覚ました。
ふう、これで何日めだろう。
悪夢に悩ませられるなんてどうかしてる!寝心地が悪いわけでもないのに。
そして、ああ、と思うのだ。
「るるるさんに会いたい。」
もう、すなごちゃんはるるるさんに会いたいってことを四六時中考えてるし、そゆときは大抵るるるさんと呟いてしまう。
てぃろりーん
るるるさんと呟いた途端にスマートホンが鳴る。
るるるさんからのメール。
『今日は鯨の海に来たよ〜。いつもの通り虹のふもとのきらきらを探しにきました〜。』
すなごちゃんがるるるさんのこと考えてる時はるるるさんもすなごちゃんのこと考えてくれてる。そう思うとまたゆりかご舟のなかで白いタオルケットに包まれてすうと眠ることができる。
ゆりかご舟は虹が三回瞬いたくらい前にすなごちゃんを連れ去ってアサリの海を漂っている。自分でも自分の行方のがわからないのですなごちゃんは自分の行方を探しています。
るるるさんはそんな行方不明のすなごちゃんに毎日メールをくれるけれど、すなごちゃんを探すのはすなごちゃんだから、とそこは突き放して探しに来てなんかくれません。すなごちゃんはるるるさんのことばっかり考えて、すなごちゃんの行方のことなんてどうでもいいの。
るるるさんが会いに来てくれることばかり考えてる。
虹のふもとのきらきらはるるるさんの趣味。すなごちゃんの趣味はるるるさんだよ〜。
それじゃだめなのかな?と、
るるるさんはだめっていう。ちゃんと探してって。
虹が24ぶんの11瞬いた日にまたすなごちゃんは
なみだをひとすじ垂らしながら「るるるさん」と呟いてるるるさんからのメールを待っていた。
しかしその日はるるるさんから連絡がくることはなかった。
すなごちゃんは悪夢すら見れなかった。眠れなかった。
かわりにうたをうたった。
なみだとはなみずで顔をぐちゃぐちゃにしながらさえずるように。
あなたのわたしに触れる手はまるできらきらに触れる時のようにやわらかでそっとしずかで、羽毛布団みたいて、わたしはあなたのゆりかごで、あなたのゆりかごじゃなきゃちゃんと眠れない。
すなごちゃんは思ったもん。すなごちゃんはるるるさんの腕のなかにいる。どこにいても、るるるさんの腕のなかでゆりかごされてるよ!!
「るるるさあぁぁんんん!!!」
すなごちゃんは千切れてばらばらになってひらひらちらちら舞い上がって、それでもるるるさんの名前は呼び続けた。
「やっとみつけた。」
虹のふもとからるるるさんはすなごちゃんのきらきらを手ですくい上げると、やさしい、綿菓子のようにきらきらのすなごちゃんをゆりかごして頬ずりした。
おしまい
王様たちがおりました (Taken with GifBoom)
春色の午後
うすもも色のチュールレースのスカートから白い脚がのぞく。わたしは君のその脚をじっと見て、やはり君はにんげんなのではないかと思う。
「なにをじっと見ているの?」
視線を感じとられたわたしは君の香りを感じていたのだよ、と余計に恥ずかしいことを言ってしまって君の唇の色に負けないほど赤面してしまった。
「あら、赤くなって、なにかいやらしいわね。」
ちがうんだ、ちがうんだ、第一君は花じゃないか。春の訪れを香りで感じてなにが悪いんだ。
そうさ、君は沈丁花であってにんげんの女の子ではないのだ。
「そうよ、わたしの香り素敵でしょ。オトコもオンナもみんなわたしの香りにのぼせるのよ。」
ナマイキな口をきくな。わたしの家の花壇に植わっているくせに他の誰かに色目をつかう気か?
「ふふ、旦那様。わたしは旦那様だけの花よ。」
沈丁花はチュールレースのスカートをくいっとたくし上げて白い脚をのぞかせた。わたしはドキっとして目をそらしてしまう。
「あら、今度はそらした!なにかやましい気持ちがあるのね!さぁ、さっさとおっしゃいなさい!白状するのよ!」
わたしはこの息巻く女の子に降参して、君が花のくせに白い脚をにゅいっと出すからさ。若い女の子の脚を見てたじろがないオトコはいないさ。と正直に言う。
沈丁花はその花弁をさらに赤くさせると
「なんだ、そうならそうと、早くおっしゃってくださればよかったのに。わたしったら恥ずかしいわ。」
としゅんとなった。
そこへ坂の上の方に住むおばさんが通りかかる。
こんにちはと挨拶をすると「ずいぶん熱心に育ててらっしゃるわね。沈丁花。毎年良い香りだわ。」と言う。
おばさんの姿が小さくなると君はまたぺちゃくちゃ喋り出した。
「あのおばさんいつもわたしの前でくんくん嗅ぐからわたし緊張して毎回息を止めてしまうわ。旦那様とおばさんはどちらが歳上なのかしら?旦那様はええと・・・」
今年で七十ニになるよ。
「そう、おばさんはお腰も曲がっているしきっともっと歳上ね!」
あのおばさんはわたしが小さい頃はよく世話をしてくれたお姉さんだったよ。とてもかわいくてね。色なんか真っ白だったよ。
「ふうん。それじゃ今はシミだらけじゃないの。あーあ、わたしは歳をとりたくないわ!」
君は一年のうちの春だけしか顔を見せないじゃないか。春が終わる頃にはいつもシミだらけ、あのおばさんのようになっているよ。
「旦那様ったら!!レディにむかってなんてことを言うのかしら!見て!こんなにわたし、今白い脚をして頬なんか、唇なんか紅をささなくてもこの赤さよ!枯れどきの話なんて残酷すぎるわ!!」
怒っているのか泣いているのか沈丁花はずいぶんとヒスを起こした。
ごめんよ。今のはわたしが悪かった。許しておくれよ。
わたしはまた脚を出してきた彼女に戸惑いながら必死に謝罪した。
「・・旦那様、わたしじきに枯れてなくなってまた旦那様に会えなくなるのはわかっているのよ。その代わり春は春だけは旦那様と愛しあって過ごしたいと思っているのよ。ね、見て。わたし脚だってあるわ。旦那様のおそばに寄ってもいい?」
彼女はまた白い脚をぬっと出してわたしに近づいてきた。赤い唇を半開きにして真っ黒な瞳でわたしを見つめながら。わたしはこのまま彼女を押し倒してしまいたいくらいの感情に飲まれそうになりながらもくっと彼女の肩を掴んで彼女をそっと離した。
白昼堂々と若い娘が脚をさらけだすんじゃない!
わたしは強めに言い聞かせたが、彼女の顔の火照りは消えずさらに深まっていった。
「あん、旦那様。肩、痛いわ。でも触れてくださってわたしこんなに・・・」
沈丁花の香りが風に揺られて身体中を包んだ。
ああ、彼女をどうにかしてしまいそうだ。
もう用事を済ませたのかおばさんが行った道を戻ってきた。
「あらま!まだいらしたんですか?本当にずいぶんと熱心ね。おやおや、お嬢さんはご親戚?お兄さんのとこのお孫さんかしら?あなたは、ご結婚なさってなかったわよね。」
いやまあ、と言葉を濁した返事をすると彼女がぺちゃくちゃ喋り出した。
「いいえ、わたしは家政婦ですの。春だけの家政婦ですけれど。」
おばさんはへぇ〜とわたしの方をじろじろと見た。
まずい。若い娘を連れこんでいるとご近所で噂になってしまったらどうしよう!
わたしが冷や汗をかいているとおばさんは彼女にしっかり働きなさいよ、この坊やはこんな年寄りだけど一度も結婚していないし、家の中のことは適当なのよ。最近、孤独死ってよく聞くし、心配だったのよ〜。と言った。
こちらの心配している風に見られてはいないようだった。
ほっと胸をなでおろして坂をのぼっていくおばさんを見送ると彼女にお礼を言う。
うまいこと言ってくれて助かったよ。
「旦那様、わたしほんとうに家政婦として働いてもよろしくてよ。旦那様のごはんのお支度やお風呂の準備、床の世話だってするわ!」
最後は余計だ!とわたしが慌てて言うと彼女はふふふっと香り立つ身体をすりよせてきて
「冗談、ではありませんよ。」
とまた挑発するようなことを言ってくる。
まったく参ってしまった。
こんなことを春の間続けるなんて老体に鞭打つとはこのことだ。年寄りの冷や水だ!冷や汗だ!
「旦那様、いくら七十ニだからったってまだオトコじゃない。わたしと甘い午後を過ごしましょうよ。」
春の訪れた家の玄関先、わたしは今年もじゃじゃ馬のように香りを咲き乱している沈丁花にそっとくちづけた。
身体中に香りが吸い込まれて、彼女がわたしと一緒になったようだった。
おわり。
非公式少女倶楽部: すべてしづかに箱のなか
『リリアンの糸がね、』
どきっ!
『絡まっちゃってほどけないの。』
ああ、まったくもう!こちらが大学のレポートを必死にノートパソコンに打ち込んでいるときに、これです!
今年中学にあがる妹のミミ。
『やーよ、いまお姉ちゃん忙しいの!構ってらんないわ!!』
トツン!となにかが背中にぶつかった。リリアンの支柱だった。
『ちょっとお!危ないじゃない、こっち、!ほら!!尖ってるんだからァ!!』
わたしが憤慨するとミミはその耳まで真っ赤にして泣いていた。
『そんなにぃ!怒って言わなくても、怒鳴って言わなくてもいいじゃない!』
わたしはそんなに怒鳴っただろうか?
…
万華鏡 (Taken with GifBoom)
@ranransakuran’s GIF from GifBoom: べろ (Taken with GifBoom)
花のワルツ (Taken with GifBoom)
降臨 (Taken with GifBoom)